これまで、ポジティブ心理学の視点から「ウェルビーイングとは何か」を見てきました。
ここではさらに一歩進んで、心と脳の働き、そして子どもの発達という視点から、ウェルビーイングの土台を見ていきます。
最近、教育や医療、ビジネスの世界でもよく耳にするようになった「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉。
「なんとなくいいことっぽいけど、結局どういう意味?」「健康とか幸せとはどう違うの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
子どもたちの育ちにかかわる大人として、「ウェルビーイング」が何を意味するのか、なぜいま注目されているのか、まずはその土台から、やさしくひもといてみましょう。
ウェルビーイングとは、簡単に言うと、「心も体も、社会とのつながりの中でも、自分らしく満たされている状態」のことです。
この言葉が広く知られるようになったきっかけは、世界保健機関(WHO)が1946年に定義した「健康」の中で、次のように述べられているからです。
健康とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態(well-being)であり、単に病気でないということではない。
つまり、「病気がない=健康」ではなく、「心と体と社会との関係が、調和のとれた状態=ウェルビーイング」こそが、本当の意味での健康だと考えられているのです。
「ハッピー」と聞くと、「楽しい」「うれしい」といった一時的な気分をイメージしがちですが、ウェルビーイングは、「気分」だけでなく、「生き方」や「価値観」にも関わる深い概念です。
ウェルビーイングに関係している状態をいくつかみてみましょう。
💓毎朝、気持ちよく目覚めることができる
💓美味しく食事を頂ける
💓自分のことを信頼できる
💓誰かと安心して関わることができる
💓目の前のことにやりがいや意味を感じられる
💓日常のあらゆることに感謝できる
💓小さな喜びに気づける
強弱や種類は人それぞれだけれど、どれかが欠けていると「なんとなく満たされない感じ」が出てくることがありますよね。つまり、ウェルビーイングは多面的な“しあわせ”といえます。
現代の子どもたちも大人たちも、日々多くのストレスやプレッシャーの中で生きています。
「がんばって成果を出せば幸せになれる」と信じて走り続けてきた結果、燃え尽きたり、心身のバランスを崩してしまう人が増えている社会にあって、
「本当の意味でのしあわせ」とは何か?」「自分を大切に、持続可能に生きるためにはどうしたらいいのか?」
そんな問いに答えるキーワードとして「ウェルビーイング」が注目されています。
教育の現場でも、学力や成果だけでなく、子どもの“心の土台”を育てることの重要性が再認識されてきています。ウェルビーイングは、まさにその「心の土台づくり」のための、考え方でもあり、実践でもあるのです。
ウェルビーイングを感じているとき、私たちの脳の中でも変化が起きています。
❤安心感やつながりを感じると、オキシトシンというホルモンが出る
❤小さな達成や意味づけがあると、ドーパミンが分泌される
❤落ち着いているときは、セロトニンが働き、心身のバランスがとれる
こうした「脳とホルモンの調和」が取れていると、私たちは“なんとなくうまくいっている感じ”を味わえるのです。ウェルビーイングはふわっとした理想論ではなく、脳科学ともつながっている「体感できる状態」といえます。
子どもの脳はまだ発達の途中。
とくに感情を調整したり、物事を長い目でとらえたりする前頭前野は20歳前後まで発達が続きます。
だからこそ、うまくできない時期があるのは自然なことでもあります。
子どもたちのウェルビーイングな心の土台をつくる上で、「自分って大丈夫」「誰かと安心してつながれる」と感じられる日常を、大人が意識的に支えていくことが大切です。ウェルビーイングの土台は、「小さな満足」や「関係性の安心」の中にあります。
ウェルビーイングは、日々のちょっとした行動や習慣、考え方の積み重ねで、誰でも少しずつ育てていける「状態」です。
「今の自分は、どう感じてるかな?」
「どんなことが、自分にとっての“しあわせ”なんだろう?」
そんな問いを、子どもにも大人にも、そっと届けてくれるのが、ウェルビーイングという考え方です。
こうした問いを、子どもが一人で抱え込まなくていいように。
大人がそばで見守り、対話しながら育てていくことが大切です。