子どもが自分の人生を選ぶ力を育んでいくために、大人はどのようにかかわることができるのでしょうか。その手がかりの一つとして、近年教育の分野でも注目されているのが「コーチング」という考え方です。
コーチングは「教えないコミュニケーション」と表現されることがあります。相手に答えを示すのではなく、問いや対話を通して相手の考えを引き出していく関わり方です。
これまでの教育では、知識を伝えることが大きな役割でした。大人が経験や知識をもとに方向を示し、子どもはそれを学びながら成長していきます。このようなかかわり方は、社会の中で多くの知識や技能を身につけていくうえで大切な役割を果たしてきました。
変化の速い社会の中では、一つの正解を覚えるだけでは対応できないことも多くなります。これからの時代、子どもたちが自分で考え、選択し、行動する場面はますます増えていくでしょう。その中で大切になるのが、自分の考えを持ち、それを言葉にしながら物事を判断していく力です。
問いを通して考える経験は、その力を育てる大切な機会になります。
たとえば、子どもが何かについて話しているときに、
「どうしてそう思ったの?」
「どんなところがおもしろかった?」
「どうやったの?」
とたずねてみることがあります。その問いに答えようとする中で、子どもは自分の考えを整理し、言葉にする時間を持つことになります。
大人がすぐに答えを示す場面では、子どもはその答えを受け取ることが中心になります。問いを通して対話する場面では、子ども自身が考えを深める時間が生まれます。
その積み重ねが、自分の考えを持つ力を少しずつ育てていきます。
こうしたかかわりを家庭で実践することは難しいのではないか、と感じる方もいるかもしれません。親子は距離が近く、日々の生活の中ではつい助言や指示が多くなってしまうものです。忙しい毎日の中で、ゆっくり対話する時間を持つことが難しいと感じることもあるでしょう。
それでも家庭は、子どもにとって最も安心できる対話の場でもあります。
特別な技法を用いる必要はありません。
「どう思う?」
「どんなところがおもしろかった?」
「どうやったの?」
そのような問いから、自然な対話が生まれることがあります。
子どもが自分の考えを言葉にし、それを大人が受け止める経験は、子どもにとって大切な学びの時間になります。話す中で自分の考えを整理し、自分の感じ方や興味に気づいていくからです。その経験を重ねる中で、子どもは自分の興味や価値観への理解を少しずつ深めていきます。
大人の役割は、答えを示すことだけではありません。子どもが安心して考え、自分の思いを表現できる場をつくることでもあります。
子どもの言葉に耳を傾けること。
問いを通して対話を重ねること。
そのようなかかわりの中で、子どもは自分の考えを持ち、自分の言葉で語る経験を重ねていきます。
子どもの未来をひらく大人の学びは、対話を通して子どもへの理解を深めていく中で育まれていきます。